もしもし、のちのち、の、貴方さま。
“中村恵による、毎日誰か何かの「もし」または「のち」についてつらつら書いていく、日記的なもの。だれか日記。“
2022年3月21日(月) 9:21
『ダンス』
天気:雨、冷たい風
場所:駅のホーム
人物:60代男性、水色のダウンコート
向かいに座るその人は揺れていた。
電車の揺れと耳から入る音が混ざり合って大きな波を生み出していた。
2022年3月20日(日) 17:35
『店員という生き物』
天気:曇りのちのち夜の雨
場所:フードコート
人物:世の中の全店員
なんでも「すみませんでした」「承知しました」と飲み込むもんだと思ってんだろ。
だからあなたの個人的な苛立ちを平気でぶつけてくるんでしょ。
お客様がいちばんだもんね。
でもね、「店員」ってただの名札だぜ。
わたしたち、結局人間なんだぜ。
2022年3月19日(土)
『成人式のちのち』
天気:曇り中激寒
場所:フードコート
人物:ハタチ過ぎの女の子、赤髪
覚えていたのはヘアスタイルが特徴的だったから
あの日晴れ着の姿を見かけたけれど今日は私服で
あの時より少人数で
いいね、これからあなたは進学するの?
それとも就職?
はたまたアルバイト?
なんでもいいと思う
ただ成人の日を迎えた後の赤の他人を見てちょっとうれしくなっちゃうなんてね
ふしぎだね
2022年3月18日(金) 18:00
『離脱』
天気:夜の風
場所:家から仕事場に向かう
人物:わたし
出勤はこの世界に戻ってくる道。
2022年3月17日(木) 21:40
『夜勤のちのち』
天気:雨
場所:セブンイレヴン
人物:レジに立つ店員
18時。シフト交代。
高校生のタニグチくんが「あーくっそー、滝じゃん」と言っているのをみて「がんば」とグッドサインを送ったら呆れられた。
「いいじゃん、早く帰れるんだから」
はぁー帰りたい。
Netflixのみたいものリスト全然消化できてない。
その前に溜まった洗い物をどうにかしなくちゃ。
2022年3月16日(水) 15:30
『パラレルワールド』
天気:晴れ
場所:住宅街の中の公園
人物:元恋人のふたり
もしかするとこうなっていたかもしれなかった
ただふたりブランコに乗っている
「犬の放し飼い禁止」という看板にただ笑って
昔こんなことして遊んでたよねなんて話して
「このまま勢いをつけたら柵を超えて飛んでいけそうじゃない?」とまたブランコを漕ぐ
あるかもしれなかった未来を今、過ごしている
でもあの時離れる選択しかなかった
ずっと一緒にいたらやっぱり違った
この距離感がよかったから
だからやっぱりわたしたち
恋人には向いていなかったよ
これはあるはずだった未来
とはまた別の未来
で、ただブランコを漕いでいる
2022年3月15日(火) 21:30
『知らない誰かに、のちのち』
天気:晴れ
場所:駅のロータリー
人物:30代女性、紙袋の大荷物
わたしは急いでただけなのに
よそ見して歩く女のせいで
潰れた紙袋
帰るまでいや帰ってからも
わたしはずっとあの女のことを
思い出してしまうに違いない
たのしくなるはずの夜が
知らない誰かに邪魔される
そう思った
最後に思い切り睨んでやったけど
気持ちは晴れない
あの女の姿が余計に張り付いてしまった
2022年3月14日(月) 20:00
『カップルの後ろ姿』
天気:5月並みの気候
場所:フードコート通路
人物:大学生カップル
アイスクリームをかわいいと言い合うふたりは別々の電車に乗り込むまで話が尽きない。
2022年3月13日(日) 14:40
『まつ』
天気:晴れ
場所:フードコート
人物:5歳のハルキくん
いもうとがうまれたとき
いもうとになんでもあげようっておもった
おかしもおもちゃもなんでも
ママは「やさしくしてあげてね」っていってた
パパは「ハルがまもってあげてね」っていってた
いもうとにやさしくできない日があった
ぼくだってトミカであそびたかったし
クレヨンはあかがつかいたかった
いちごのアイスがたべたかったし
ママのとなりにすわりたかった
ぼくは今まいごになっている
ぼくはおうちにいてもだーれもぼくのことなんてすきじゃないんだなーっておもったから
みんなでおでかけした先でそっとパパからはなれてみた
ぜんぜんむかえにこないからやっぱりだーれもぼくのことなんてすきじゃないんだとおもうと
かなしくなった
なみだもはなみずもでるけどティッシュがなかった
むかえにきてくれるとき、いつもおこられるぼくはやっぱり今日もおこられるのかなとおもった
そしたらもっとかなしくなった
だけどはやくパパとママにあいたい
2022年3月12日(土) 8:00
『あの子ちゃん』
天気:晴れ
場所:アパートのベランダ
人物:あの子ちゃん
顔も声も姿形も思い出せないあの子ちゃん
香りだけがわたしの中にぽつんと残ったあの子ちゃん
あの子ちゃんは香り?
でもあの子ちゃんは今この香りじゃないかもしれない
それでもわたしはこの香りのあの子ちゃんしか知らないから
いつだってあの頃のあの子ちゃんを今に連れてくることができる
2022年3月11日(金) 15:40
『映画鑑賞、のちのち』
天気:晴れ、夕方になる前のオレンジの日差し
場所:映画館から渋谷駅に向かうまでの道
人物:わたし
映画の中のふたりはこれからの人生の中で時々、
その人が自分の背中にそっと手を当ててくれていることにふと気づくんだろうな、という想像をした。
わたしも誰かの言葉を話したくなった。
2022年3月10日(木) 14:35
『Door to Door』
天気:晴れ
場所:向いのアパート
人物:セールスマン
「あ、こんにちは〜…」
もう慣れてるから。
無視なんて。
今忙しいのかな?留守なのかな?なんて思ったりしない。
それでも待つ1分。
仕事の日は1日が長い。
2022年3月9日(水) 21:39
『帰路』
天気:晴れ
場所:帰り道
人物:20代女性、茶髪にマフラー
だいすきなんだよなぁー。
ファミマのつくね。
22時が近づくとホットスナックの棚からつくねが消える。
だから今日はラッキーだ。
1日の終わりにラッキーを感じられるのはいい。
そして100円もしないラッキーで幸せを感じる安いわたしも嫌いじゃない。
疲れたからだにごくんと入る鶏ミンチ。
何でこんなにおいしいんだろ。
わたしはこの帰り道の一本が好きだ。
幼い頃は家に着くと家には灯りがついていて夜ご飯の匂いがして、インターホンからおかあさんの「おかえり〜」って声が聞こえてきた。
今は帰っても誰も待っていてくれない。
灯りはないし部屋は寒いし洗濯物は外に干しっぱなしだ。
わたしの「ただいま」は部屋にぽつんと落ちるだけ。
帰り道、駅から降りた人人は仕事帰りのお父さんだったりカップルだったりわたしと同じような家に待つ人のいないひとりだったりする。
その誰もが他の誰かに感心なんてないけれど、それが心地良いのだ。
どうせひとりなのにひとりじゃない気がするのだ。
ひとりじゃないと思いながらつくねを食べて疲れを癒しているこの時が今生きていていちばん幸せに感じるのだ。
2022年3月8日(火)
『目の癒し』
天気:晴れ
場所:ドトール
人物:八つ橋さん
4割本気6割レジャーの恋です。
そんな恋にもそろそろ終わりが来る。
彼の普段の姿をわたしは知らない。
何の食べ物が好きとか、どんな音楽を聴くとか、休みの日は何してるとか。
知っているのは「恐れ入ります」の声と警戒心の強そうなそれでいて寂しげな目、それから偶然見かけた仕事帰りの彼の私服がギリギリダサかったこと。
変わり映えのない日常に時々現れてわたしの心をキュンとさせる彼。
わたしたちの間にはいつもカウンターひとつがあってその隔たりを超えることはできない。
2022年3月7日(月) 20:35
『ドーナツのちのちオートファジー』
天気:晴れでも風はひんやり
場所:フードコート
人物:高校卒業したばかりの男子7人
今日は卒業式を終えてから初めて仲間に会った。その中のひとりの口から「オートファジー」なんて言葉が出てきた。
何だよ、今までは「おれ夜食わねぇから」だったじゃんか。何いきなり横文字使ってんだよ。ドーナツ食ったくせに今更何だよ。
2022年3月6日(日) 11:55
『終業のちのち』
天気:晴れ
場所:電車の中
人物:斜め前に座る5歳くらいの男の子
シャワーを浴びて布団に入ってようやく
わたしは音のない世界に入る
暗い宇宙で一人浮いている
2022年3月5日(土) 15:00
『チューリップおじさん』
天気:霧のち晴れ
場所:実家のキッチンとリビング
人物:おかあさん
学校で有名な近所のおじさんっていうと、誰にでも思い当たるおじさんがいると思うんだけど、チューリップが県の花である富山県出身の母の地元では「チューリップおじさん」がいたんだって。
チューリップおじさんは中高生の女の子に出会うと頰に添えたグーの手(ぶりっこポーズ)をパッと開いて、まあ、花を咲かせるみたいな? ただそれだけして去っていくおじさんらしいんだけど。
それ聞いてからわたしもチューリップおじさんやってみたんだけど、やりたくなるポーズだわ。
2022年3月4日(金) 7:30
『目覚まし、のちのち』
天気:晴れ
場所:ベッドの上
人物:妹
前の晩寝る前に目覚ましに使う音楽を探す。
月曜日は1週間の始まりだからパッと明るい曲。
火曜日はファイヤーっぽい曲。
水曜日はパシャっと爽やかな曲。
……
金曜日はネタ切れ。ただ好きな曲をかけることにした。この曲を聴いたら彼らにしばらく会えないことを思い出して朝から悲しくなったりするのかなー、いつになったらライブに行けるんだろうとか考えるスイッチになるのかなーと悩んだ。
そんな曲を寝ぼけ眼に聴いてすぐスイッチを押す。
そして二度寝。
2022年3月3日(木) 13:30
『コロッケ蕎麦』
天気:晴れ
場所:テレビの中
人物:わたし
お蕎麦のお汁にコロッケをぐじゃぐじゃに溶かして食べるなんて、サクサク揚げたてコロッケ派のわたしには考えられない話だった。
けれども仕事前に観たドラマの中のコロッケ蕎麦はとても美味しそうに見えた。お汁の濃さや熱さ、お蕎麦を箸ですくった時にぶわっとあがる湯気、狐色の衣が透明になっていく様子…。食べ終わった油の滲んだお汁をみたら「食った食った」と一種の達成感を抱きそうだなぁー。
ということで今日の休憩ではコロッケ蕎麦を食べようと思う。
2022年3月2日(水) 22:20
『目標のちのち』
天気:曇りかと思ったら突然降った雨
場所:アパートの窓の側に置いた机
人物:わたし
目標や頑張ることを決めてもどうせすぐに裏切ることができる自分を知っている。もうそんな未来しか見えないのでわざわざ身を滅ぼしにいく必要もないかと思い、久しく目標を立てていなかった。
今日スケジュール帳の上に書いたことは目標というよりは日々の記録の答え合わせという言葉の方がしっくりくるけれど、3月2日の欄につけた花丸は明日からのわたしに小さな自信と声援をくれる気がした。
2022年3月1日(火) 23:58
『眠る前のYouTube』
天気:晴れ
場所:ベッドの中
人物:画面の中の人
四角く光る画面の中、その人は記憶の何百倍もきらきらとしていた
ベッドに沈んだわたしの体の中からドラムみたいな弾みが感じられる
当時ただ大きい口を開けて笑っていたその人のパフォーマンスを
今日はじめて涙を流して観た
あたたかかった
自然と三日月みたいになった唇から柔らかい息が漏れた
2022年2月28日(月) 19:00
『来る春』
天気:晴れ
場所:フードコート
人物:メタリックなダウンジャケットを着た20代女性
わたしは彼女をすぐ見つけることができる
体を包むそれが紫になったり緑になったり青になったりするからだ
今日その人は他の人と何ら変わりない様子でクレープを食べていた
あと1ヶ月も経たないうちにわたしは彼女のことを見つけられなくなるだろう
2022年2月27日(日) 12:21
『毎日最新ニュースをみている』
天気:晴れ
場所:図書館へ向かう道
人物:すれ違う人人
息子を助手席に乗せた新車
桜もちを買いにきた人
さっき電車の中で見かけた女の子
晴れた日
その誰もがいつもより眩しくみえた
その歩みを
その笑みを
ゆっくりと確認するように
わたしを囲む空気とともにある人人をみた
2022年2月26日(土) 〇△:□□
『テレビつけたあれから』
天気:晴れ
場所:どこでも
人物:きっとだれでも
何をしていても
わたしのからだの半分はここから離れている
ここから地球のあちら側へ
飛んでいく
たしかに変わった
わたしが見る景色は今までもそのどれもが違ったはずなのに
あれから
わたしが見る景色は今日も同じはずなのに
まるで違う
何をしていても
2022年2月25日(金) 13:52
『落ちる、のちのち』
天気:晴れ
場所:仕事にいく途中の道路
人物:中学生男子7人グループ
ここでは今カイロが落ちた。
誰にも触れられず車は通り過ぎていく。
いずれ冷えて風に飛ばされてしまうんだろう。
ここでは今カイロが落ちた。
2022年2月24日(木) 12:21
『何時何分何秒(のちのち)』
天気:晴れ
場所:窓際の机
人物:わたし
今日なんてことない時間を過ごせていたことにふと気づいて泣きそうになるような人間です。
そしてその数分後、急に何もないことに気づいて泣くような人間です。
ほんとうに辛いとき誰かを救うことを思います。
そうしないとほんとうに自分の存在を許せないからかもしれない。
祈っています。今誰かが救われる瞬間を。そうしたら関係のないわたしも救われるかもしれないと。
この涙がせめて自分だけのものでないように。
2022年2月23日(水) 13:40
『LOCAL HERO』
天気:晴れ
場所:銀だこに並ぶ列
人物:おかあさんと並ぶ男の子(7歳くらい)
英語なんて読めなかった頃。
ただ親に着せられていただけの服。
宿題と音楽だけが世の中の敵だったあの頃は、まさかこんな弱っちい大人になるなんて思ってもみなかったよな。
2022年2月22日(火) 17:48
『向かい合い、言い争い、きらい』
天気:晴れ
場所:向かいのアパートの一階
人物:茶トラの猫、黒ブチの猫
いつまで向かい合っていればいいんだろ。
にゃーにゃー言ってくるけどぼくは言い返したいことないんだよにゃー。
ただ、面倒くさいから今すぐ逃げ出したい。なのにずっと目を合わせてくるんだもん。
ぼくら野良猫なんて今日初めて顔を見合わせた仲なのに、何でこうやって唸られているんだろ。
あーいいなぁ〜、飼い猫は家で呑気に寝ていられるんだからさ。
ぼくだってのんびりしていたかった。
猫を満喫したいのににゃー。
猫も案外面倒くさいんだにゃー。
2022年02月21日(月) 21:45
『小学生』
天気:晴れ
場所:坂道にあるセブンイレブン
人物:黒のボアジャケットを着た男性
足を踏み出した0.5秒後に俺を内側から引っ張るガキがいて、横断歩道の外れでしばらく立っていた。
2022年02月20日(日) 18:49
『いらっしゃいませ』
天気:曇り時々雨
場所:天丼の店
人物:ひとり客たち
一人きりばかりが集まる店でイントロクイズ大会が行われる。
「なんだろうね」「なんだろうね」
「口ずさめるんだけどなぁ〜」
「ふんふんふ〜ん♪」
盛り上がりが冷める前から冷めるのがさみしくて誰も答えないでいた。
2022年02月19日(土) 00:10
『置き手紙』
天気:雨の前日
場所:アパート
人物:寝る前のわたし
帰ってきたわたしへ
お疲れさま!今日も一日よくがんばったね
おなかは空いているかな?
明日は朝から出勤だね
疲れていると思うけど今日じゅうにお風呂に入ることをおすすめするよ
ごはん食べたっていいから
とにかくゆっくり休んで明日に備えてね
寝る前のわたしより
2022年02月18日(金) 16:00
『カラスのくちばし』
天気:曇り
場所:フードコート
人物:60代男性
ようやく見つけたムクドリの奥さんが言った。
「あなた、今はもうくちばしを出さない時代なのよ。」
そしてポケットから輪っかが二つついた白い布切れを出した。
吾輩はくちばしを捨てた。
2022年02月17日(木) 11:49
『思いつき、のちのち』
天気:晴れ
場所:駅に向かう道
人物:わたしまたは誰か
テレビを点けるようにまたはお腹が鳴るように、死にたいと思った時、
生垣にちょこんと乗った長靴を見て、
誰かがここを去る時に忘れてしまったんだなと、
「わたしのいのち一つで、どうか他の全ての生命を救ってください」と祈りを捧げて天に向かったのだと、そんな妄想をした。
2022年02月16日(水) 21:00
『腹巻き』
天気:晴れ
場所:お風呂場
人物:腹巻き
腹どころか胸の下まで上がってきた腹巻きはそのうちスクール水着みたいに胴体を覆うかもしれない。
2022年02月15日(火) 14:20
『かつて』
天気:曇り空が晴れてきた
場所:トランポリン公園
人物:かつていたおじさん達
トランポリン公園でただ飛んでいるだけのトランポリンおじさんは、今思えば、意外とスリムだったのかもしれない。
体幹も強そうだ。
こどもの目から見ておじさんだっただけで意外と若かったのかもしれない。
トランポリンおじさんはほんとうにトランポリンが好きなだけのおじさんだったかもしれないし、その浮遊感が好きだったかもしれない。
日常の中で浮遊感を味わえることなんてない。毎日飛行機に乗ったりジェットコースターに乗ったりできるわけでもない。
そんな中、日常に紛れて立つトランポリンに目を奪われて、それからというもの毎日トランポリンを飛んでいた。のかもしれない。
1ヶ月前に、いつ振りだかに、ブランコに乗った。漕いで漕いでどんどん高くなっていくブランコがこわくなっていた。
大人になったらあの頃たのしかったものがこわいものになってしまうんだなぁと思った。
だからトランポリンおじさんはそうした恐怖心よりも好奇心が勝っていた、幼心を忘れていない地味にすごい人だったのかもしれない。
とトランポリン公園を通り過ぎながら、そんなことを考えた。
今日もトランポリン公園には誰ひとりおらず、トランポリンはピンと膜を張ったままだ。
2022年02月14日(月) 13:01
『ラーメン屋、のちのち』
天気:曇りのち晴れそう
場所:道路沿いのラーメン屋
人物:カウンター席の俺たち
にんにくとスピーカーのミスチルを持って帰る。
冬なのに夏みたいだったからほんとの夏にまた来ようと思った。
2022年02月13日(日) 19:27
『あお、エメラルドグリーン、のちのち』
天気:雨
場所:セブンイレブンの前の坂道
人物:車
ファインディング・ニモのドリー。
ふた昔前の学校のジャージ。
お母さんが若かった頃のスキーウェア。
社宅に隣接した公園のブランコ、の支柱。
FILAのスニーカーの配色。
……
わたしはね、3台目はムラサキが来るんじゃないかなぁーって思ってるよ。
2022年02月12日(土) 19:07
『塾に通う日々、のちのち』
天気:夜の空
場所:アパートからスーパーに向かう途中にある塾
人物:塾に通う子達
大人達が帰ってきてるこの時間があたしたちにとってのラストスパートみたいなもんで、でもそんな日々もあと少しで終わる。
塾の後、ドア出た所で何となくたまっておしゃべりするのが好きだ。
「早く帰れよ〜」っていう先生の声も含めて好きだ。
お腹空いてるのに、早く帰りたいのに、だらだらとおしゃべりしちゃうという矛盾。
だけどその時間は1日のうちのどこにも当てはまらない感じがするからあたしにとっては特別。
現実から一歩出た、すごろくでいう「一回休み」みたいな感じかなぁ。
あと1ヶ月もしたらあたしはここに来なくなる。
大好きなドアの外のお喋りはあと何回できるだろう。
あたしがいる「今」にもう戻れなくなる日が来るなんて信じられない。
1ヶ月後、この「今」に戻りたくてももう戻ってこられないことをあたしは知っている。
だから体いっぱいにこの今を吸い込んで味わうんだって思う。
でもそんな体いっぱいをどれだけしたって振り返って恋しくなるんだよな。
2022年02月11日(金) 21:47
『待ったのちのちを想像して待つおれ』
天気:曇り空(夜)
場所:家賃高そうなアパート?マンション?の横のちっさい公園
人物:小学4年生くらいの男の子
まだ来ない。
でも全然待てるのはあいつだからだって割と本気で思っちゃった。
思っちゃったからやっとあいつが来た時におれだけ変にそわそわしちゃうかな。
2022年02月10日(木) 09:07
『半額のシャケ、のちのち』
天気:雪予報だったけどほぼみぞれ
場所:アパートのキッチン
人物:半額シールがついたシャケ
冷蔵庫にいると僕は君を追い詰めてしまうらしい。
22時前のスーパーで初めて手に取ってくれた時とは違う空気を纏った君がくる日もくる日も生活している。
僕は待つことしかできないからただ冷やされているだけで、色が変わっても匂いが強くなっても声に出せない。
今日何日振りかに君が僕に触れた。
朝だった。
君は昨晩から考えていたらしいね。
フライパンで焼くのか炊飯器でお米といっしょに炊いてしまうのか。
結局炊飯器で炊くことにしたらしい。
おいしいシャケの混ぜご飯をつくるのだ。
醤油を回し入れた方がいいのか、塩をひとつまみ入れた方がいいのか、仕上げにバターを乗せるのか。
そんなことを考えている君は、数日前の息を乱して泣いていた君から少し脱しているように思えて僕はうれしくなった。
炊飯中、君が鼻歌を歌う。
ずっと棚の奥に仕舞われていたから初めてこんなにしっかりメロディーを聴いたよ。
君が好きなアーティストはこうやっていつも君の背中に手を当てていたんだなと知った。
「いい匂い」
君の口から溢れた言葉が僕の精一杯で、食べたらすぐ終わってしまうから毎日毎分毎秒寄り添えなくてごめんね。
だけど僕だって君のパパやママと同じくらい君が毎日心穏やかに過ごせることを願っているよ。
2022年02月09日(水) 14:11
『歩く青年、のちのち』
天気:晴れ
場所:駅から出てすぐの通り
人物:20代後半の青年、IKEAのトートバッグ
通りすがりの女の子が不思議そうな様子で僕を振り返ったけど気にしない。
俺はこのスタイルが楽だから。
それからしばらく空いた両手をぶらぶらさせたりスマホを持ってみたりしていた。
団地に向かう角を曲がると前から50代くらいの夫婦が歩いてきた。
夫婦の目が俺を「はいはい」となだめているように見えた。
俺は頭の上のIKEAのトートバッグをするりと手に持った。
2022年02月08日(火) 17:35
『コーヒーのちリモート、のちのち』
天気:曇りのち晴れ
場所:帰りの電車
人物:わたし
親指と人差し指を繋いだマルを覗いてみた。そこから見える宇宙がわたしの傷を癒してくれるわけでもないのだけど。
そんな小さいことで悩むなよ、くよくよするなよ。ほら顔をあげてごらん、自分が悩んでることなんてちっぽけなことに思えてくるだろう。
って言葉がわたしは嫌いだ。
どうして今のこの気持ちをちっぽけなものにしなくちゃいけないんだろう。
いつまでも地面を見て人混みの一歩内側に住んでいることがキモいから?
たしかにそれはそうだろう。
だけどちっぽけだと思うことは今のこの気持ちもそれを感じたわたしも、その両方を否定しているような気がしてわたしはそんな考えが暴力的に思える。
「じゃあそのくよくよを他人に見せないで。こっちまで持ってこないで。」
そうだよね。迷惑かけてごめんなさい。
いつもあなたばかりを働かせてごめんなさい。
だからやっぱりひとりの星に生まれたかった。
2022年02月07日(月) 18:10
『フランケンシュタイン』
天気:寒空
場所:フードコートの柱カウンター席
人物:夫と妻
すっかり硬くなってしまった彼の頭をほぐす。
動かなくなった肩。
しっかり根を張った二本の脚。
彫り込んだような眉間。
今日も人人が私たちの横を通り過ぎてゆく。
2022年02月06日(日) 18:45
『スパゲッティ食べてたわたし、の、のちのち』
天気:晴れ
場所:お洒落な方のフードコート
人物:アイちゃん、お父さん
昔お父さんがスパゲッティを食べさせてくれた。
「いい食いっぷりですねぇ〜」と褒めてくれた。
何かを始める時、必ずいちばん最初に「アイちゃん!」と呼んでくれたお父さんはその時20代前半くらいだったのかなぁ。
髪の毛に金色が入っていて会う時はいつも黒い服を着ていたな。
一人称は「俺」だったお父さん。「思い出をつくりにきたんだよ〜」と言っていたお父さん。
幼稚園の遠足、小学校の入学式、芋掘り、似顔絵、漢字や九九、かけっこ、合奏…
「アイちゃん、たのしみだね〜」とわたしより先にお父さんがたのしみにしてくれた。
テニス部、はじめての彼氏、誕生日につくるお菓子のバッグ、プリクラ、カラオケ、ファミレスのバイト、修学旅行…
いつの間にかお父さんがたのしみにしてくれなくてもわたしは自分ひとりでたのしみにできるようになった。
自分の言葉で理解して、再び言葉にして伝えるにはあの頃はあまりにも幼すぎて伝えたいと思った時にはもう手遅れだ。
自分はひとりだと思った時、わたしはお父さんの声を思い出しているんだよ。思い出の中のお父さんに頭を撫でて、微笑みかけてもらっているんだよ。
わたしはお父さんが発する「アイちゃん」がいちばん好きなんだよ。
2022年02月05日(土) 17:44
『だれか、のちのち、蒼』
天気:青のグラデーションが綺麗な空
場所:マルイから駅に向かう道
人物:思い出せない
バイトが終わって見上げた空が綺麗だった。
誰かを思い出したけど誰だかわからない。
それは思い出したとは言わないか。
誰だったんだろう。
好きだった人のような気がする。
懐かしいという気持ちに誤魔化されてそう思うのかもしれないけど。
2022年02月04日(金) 不明
『貰ったおめでとう、の、のちのち』
天気:晴れ、寒い
場所:アパートの一室
人物:よもぎちゃん
貰ったものは返さないと。
このままではわたしが悪者になる。
そんなことを考えてしまう自分がいやだ。
わたしにはそんな暇ないのに。
…
元はといえばあの子が悪いんだ!
いつだってそうだ!
わたしにぐるぐるした、絡まった気持ちを起こさせるあの子が悪いんだ!
なのに何でわたしが悩まなくちゃいけないんだろ。
きっとあの子はわたしが今こんなことを考えているなんて思ってないんだろうな。
呑気にご飯でも食べてるんだろう。
…それならまだいい!
わたしが嫌いなあの子と一緒にいたら?映画なんか観ちゃってピザとか食べちゃって「こんなに気の許せる人、他にいないよ〜」なんて言ってたら??
許せない!
何なんだ!
いつもわたしばっかりつらいのは何で?
会っていた頃、あの子は「つらい」って表情をよくしていたけど、正直「つらい」の比率はわたしの方が多かったと思うよ。
それでもいつも伝えてきた。
嫌だと思ったことも感動したこともこれからのふたりのことも。
なのに何でだろ。
どちらが、ではなく自然に消えてしまった。
頭の奥にはいても日常にあの子が現れることはなくなったのに、忘れたのに、ようやく平らにならしたと思ったらあの子はそこに鉄球を投げ込んできた。
あーあ。
もう逃げられないんだな。あの子と過ごした日々がわたしからあの子を消すことを許さない。
2022年02月03日(木) 17:43
『わたしたちののちのちは3月』
天気:晴れのち夕日
場所:飯田橋駅から永田町駅、半蔵門線に乗り換える電車
人物:わたし
あと一歩踏み出せば間に合ったというところで日常が扉を閉ざした。
非日常と日常の間に空白の時間ができた。
日常が戻ってきちゃうと口に出した後、元々日常から一歩外に出たのはわたしなのだから戻るのはわたしの方だなと思った。
4分後、電車に乗り込む。
隣の女性がうとうとし始め、彼女の体重がわたしの左腕にかかったが気にせずスマホを触っていた。しばらくすると彼女の腕の筋肉がゴロゴロと動いた。まるでマッサージ機のように丸い物体が上下していた。
それが気持ち悪いと感じた時、わたしはようやく日常に戻ってきた気がした。
次第にそれがわたしの腕にも移って、わたしの腕の筋肉もゴロゴロとした生き物を飼い出すのでは?
そんな妄想でまた日常から抜け出すこともできるけれどわたしは「気持ち悪い」から抜けられず、何なら彼女が左右にウトウトすることにもイライラし始め、最寄り駅に着いた頃には「やっとだ!」という勢いで立ち上がった。
わたしの左腕の筋肉は今硬直している。
2022年02月02年(水) 14:56
『ガードマン』
天気:そろそろ夕日
場所:小石川堀
人物:スマホを見ている男性作業員
せめて近くで遊んでいる男の子のサッカーボールが飛んできたりしないかな。まぁここは高速道路と総武線とビルに囲まれているんだけど。
我ながら思うよ。
船のボディに書かれた文字と俺の行動、合ってない。ついでに、この業務はここに至るまでの講習期間と資格取得に見合ってない。
俺は今日もこの船に乗って、高速道路を走る車のタイヤの音を聞きながらスマホの画面ばかり見ている。
朝ここに来る途中、近くのビルの隙間で工事現場の作業員と職員がラジオ体操をしていた。
偉いなぁ、朝から体を使って働いて。
俺だってどうせ守るなら、大海に突然現れた水を吹く大蛇の報告とかしたかった。
なんてね。
2022年02月01日(火) 15:00
『肩甲骨のタトゥー』
天気:晴れ
場所:フードコートの丸テーブル
人物:年齢不詳の女性、タトゥー
あなた達の笑い声をあたしは聴いている。
いいお菓子になった?
でも甘くないのよ。
ジェットコースターに乗った気分になるかもしれない。ブランコに揺られた気分になるかもしれない。
って。
きっと声を掛ける勇気はないのだろうけど。
だってあたしが守ってるから。
2022年01月31日(月) 12:36
『本日』
天気:晴れ
場所:部屋の中
人物:高校時代の友人
あなたが過ごす日々の中に毎年一回、わたしを思い出してくれてありがとう。また来年、日付けが変わった頃に。
2022年01月30日(日) 09:17
『回送電車、の、のちのち』
天気:晴れ
場所:駅のホーム
人物:回送電車
まだ眠ったまま、昨日の夢を引き連れている。
早く日常に戻して。
2022年01月29日(土) 23:26
『期限の切れたイルミネーション、の、のちのち』
天気:星が覆われた夜
場所:駅前のロータリー
人物:イルミネーション
ビルやカラオケを背景に光っていた僕らは日に日にそれらに同化して、誰も僕らに目を向けなくなった。
それでも時々誰かの目を潤ませる夜がある。
あと2日したら僕らは撤去される。
僕らに助けを求めた目に、もう映ることができないと思って、泣けない僕らはより一層光ろうとする。
あと2日。
2022年01月28日(金) 23:10
『買った安心、の、のちのち』
天気:曇りがちな夜
場所:自宅
人物:わたし
通帳を開くと残高がディズニーランドに行くときのお財布の中身くらいしかなかった。
カードの明細には安心をお金で買おうとした焦燥感がずらずらと並んでいた。
買った安心は全て食べてしまった。
体についたのは脂肪だけで安心はその一瞬かぎりで去ってしまった。
わたしは買えない安心が欲しい。
2022年01月27日(木) 09:03
『撮る、のちのち』
天気:「晴れ」という前の朝
場所:最寄り駅の手前、歩道の脇
人物:20代後半男性、黒のロングコート、リュック、イヤホン
何だかよくわからない花の蕾が目に入った。
何だかよくわからないのにちょっとうれしくて写真に撮ってみた。
誰かに教えてみたい。
ラインを開いた。
けれどやっぱり恥ずかしくなって駅のホームでひとりこっそり写真を見た。
2022年01月26日(水) 17:10
『くまの夫婦』
天気:晴れ
場所:フードコート
人物:60代男性と60代女性
わたしたちは正確には夫婦ではない。
ただ毎日ここに来て一緒にごはんを食べるふたりである。違う家からやってきて一緒にごはんを食べてまた違う家に帰る。
誰かはお友だちと言うし誰かはカップルだと言う。
わたしたちの関係は既存の名前に収めるには曖昧な仲なのである。
だからいつこの関係が終わってもおかしくないと思っている。
わたしたちはもうふたりではふたりでいられなくなっていた。
話すこともない。口を開けばだんなは目眩がするだとか血糖値がどうだとか言う。
正直この店の味にも飽きている。
それでもここに来ることだけがわたしたちの日課だった。
ここには勤勉なさんにんの黄色い妖精がいて、いつもあちこち飛び回っている。
わたしたちはそのうちのひとりを、わたしたちの約束にした。
こうしてふたりのためのさんにんの時間が始まった。
2022年01月25日(火) 07:30
『昨夜、のちのち』
天気:晴れ
場所:パン屋さんまでの道のり、住宅街
人物:わたし、妹、空
残したでしょ。朝あけたら出てきたのよ。
昨日は黄色く光ってたけど今日にはもう白くなっちゃったみたいね。
きっと夜に浸かりすぎてしょっぱくなったに違いないわ。
残さないでしっかり食べてよ。じゃないと今日の夜は月抜きだからね!
2022年01月24日(月) 10:39
『なぞる、のちのち』
天気:晴れ
場所:灯油スタンドの駐車場
人物:空
2121年。
指1本で時空を旅する。
空では雲のにゅうめんをこさえていた。薄く蒸気に蒸らして何時間も空気に揺らしてできあがる。
すぐ隣ではずるずると渦を巻きながら吸い込んでいく口があった。
口どけは大変良いという。
お腹いっぱいになった空が今日もわたしたちを包んであたためている。
2022年01月23日(日) 16:10
『歩き通話、のちのち』
天気:夕焼け
場所:車道を挟んで向こう側の歩道
人物:20代後半くらいの男性
こっち側まで聞こえて来る電話の声。
もしかしたら世界じゅうに発信しているのかもね。
2022年01月22日(土) 23:24
『あれから、のちのち』
天気:晴れ
場所:電車
人物:わたし
その言葉はわたしにとってはだいぶ豪速球だったのでかわしたつもりのそれが頬骨を掠めて今も少しふらふらしている。
今日のことはまだ鮮明に思い出せるつもり。
明日になったらきっと少しずつ消えていくはずだ。
それでもそれを受けた時の衝撃だけは真空パックに閉じ込めていたみたいにわたしの首根っこ目がけて飛んでくる。
次会う時に「これ」が現れたらどうしよう。
その人ではなく「これ」でしかその人のことを見られなくなるかもしれない。
「全部わたしが悪い」はこの呪いを封じ込める唯一の呪文だ。けれども呪文には期限がある。
今日、「あれ」を呪いにするかどうか。
ギリギリ選ぶ余地がわたしにはある。
2022年01月21日(金) 21:15
『時短営業、のちのち』
天気:晴れ
場所:フードコート
人物:早く帰りたい店員、なかなか帰らない客
かち、かち、かち…ちりりーん!
21時だ!
さっきまで皿を洗っていたもの、トレーを片付けていたもの、ポテトを揚げていたもの…みなが待ち合わせていたように店奥に消える。
しばらくして客席を取り囲む形で警備員たちが姿を現した!
客はそそくさと去っていった。
「毎日がハロウィンなんだ」
そこで毎日アイスをつくっている友だちが言った。
2022年01年20日(木) 11:25
『発券機、のちのち』
天気:晴れ
場所:吉祥寺の映画館
人物:おじちゃん、キャップ、ショルダーバッグ
映画館も変わったもんだ。
みんな並んで何やら画面をタッチしているけれどこれのどこを押したらチケットが出るんだ?
俺はこの生活に慣れたもんでもう今更恥ずかしいとかそんな気持ちは置いてきてしまったよ。
1900円。
1900円もあればなんだって買える。銭湯に行ってから新しい服を買うことだってきっとできる。
でも俺は映画が観たかった。
いつもは「まだ10分しか経ってない」と数える時間を映画を観ることだけに使いたかった。
発券機の操作方法がわからずカウンターのお姉ちゃんに聞く。
慣れた口調で教えてくれた。
目と鼻が俺を観察していた。
分かってる。
久しぶりに座った映画館の椅子は座り心地が大変良くて気づいたら眠ってしまっていた。
2022年01月19日(水) 16:00
『薫、のちのち』
天気:曇り
場所:フードコート
人物:おじいさん、おじちゃん、おばあさん
今目の前にしているのだから
その人たちが生きていることが
生きてきたことが
よくわかるのに
強く焼き付けるように残って
まだ空気といっしょに浮いている
辿っていったらわかるかもしれない
彼らの住処が
2022年01月18日(火) 22:56
『ミニマムムーンなんだって』
天気:ミニマムムーン
場所:帰り道の最後の角曲がったとこ
人物:わたしとあの子たち
今日はミニマムムーンだったことをふと思い出して帰り道に見上げてみた。たしかに遠いかもと思った。
高校生の時、星座が好きな友だちがいた。
月とか星とか見るとその子のことを思い出す。で、現代文の音読のこととか演劇部のこととか蒟蒻ゼリーとプッチンプリンのこととかを思い出す。
今も実家に住んでる?年賀状送り合わなくなっちゃった。
元気にしてる?
今何してる?
大学生の時「もし自分がI love youを訳すなら何て言う?」って話をした友だちがいた。
それからは満月とか大きい月とかやけに光ってる月とかが見えるとその子にLINEした。
その子は今熊本にいて、今じゃ連絡をとらなくなった。連絡しようとすればいつだって連絡できるのにと思うけれどしていない。
わたしは今日そのどちらでもない子に「今日ミニマムムーンなんだって」と言った。
胸の中がきゅるきゅる回ってる感じがする。
ねぇ、あの子もあの子もあの子も。
月、みてる?
月みてたらいいなぁ。そしてよく眠って、明日の朝を迎えてほしいなぁ。
2022年01月17日(月) 20:00
『死にたい俺、の、のちのち』
天気:晴れ
場所:フードコート
人物:男子高校生、背が高い、学ラン
「あーまじで今死にたいわー!」
「まじで死にてぇー」
「死にたいんだけどぉ〜〜」
言えばその言葉の響きが嘘っぽく聴こえたりするから俺はやっぱり死にたいわけではないのかもしれない。と思ってみた。けどそうしたら死にたいと思った俺を自分で殺すことになるよなーとか。てかフードコートでこんなことを言ったって誰も聴く耳持たないよなーとか思うとやっぱり俺のこの叫びって何でもないものなんだなーと思えてきた。叫びってほど切実じゃないんだけど。でも。思った。ちょっと死にたいと思った。それはほんと。
みんなほどほどに死にたいんだと思う。
でもこうやってフードコート来て牛丼食ってクレープ屋の前でクレープのメニュー見ながら駄弁って家に帰る。
死にたいって思ってたことは消えてないけど、また体の引き出し、その奥にしまわれていく。
明日も学校だ。寒くて朝起きるのがきつい。
おかあさんが朝早く起きておとうさんと俺の弁当作ってその後すぐパートに出掛けるけどあれって超人のなせる技だと思う。歳とったら誰でもできるようになんのかな。
大学生の俺は高校生の俺より早起きかな。そんなわけないか。
とりあえず明日早起きしてみよーっと。
2022年01月16日(日) 19:00
『落としもの、のちのち』
天気:晴れ
場所:ノートの中
人物:カプセルトイ
後輩がその親子に「こちらではお預かりしていないです」と伝えるとひどく悲しそうだったという。
わたしもその親子らしき人を見た。足早にフロア内をぐるぐると回っていた。子どもは母親について行くのが必死な様子だった。
わたしが思っていたよりもそれはとても大事なものだった。
15分後、その親子の落としものが見つかった。椅子の下にあった。
「カプセルトイ、どうなりましたか?」
休み明けに後輩に聞かれて紛失物ノートを見た。
「うーん、あの後お問合せはなかったみたいだね。お客様の手に渡ってないかも。」
「あー、そうですかぁ〜…あるんだけどなぁ、ここに。」
あの親子の落としもの。
ここで預かっています。
わたしたちはここで待つことしかできないけれど。もう一度来てくれればという望みの薄い望みの言葉だけが浮かびます。
これはのちのちというか、お祈りです。
2022年01月15日(土) 23:26
『捨てたもの、のちのち』
天気:夜の冷え込み
場所:ローソンの駐車場
人物:だれか
誰かが捨てた煙草に妖精が魔法の雫を振りかけるとそれはいくつものメッセージボトルになりました。
2022年01月14日(金) 12:13
『ホームボクシング、のちのち』
天気:晴れ
場所:押上駅のホーム
人物:30代男性、赤色のダウンジャケット
みんな見て見ぬふりだ。その場をくるくる回ってもジャンプをしてもシャドー打っても。じゃあつり革で懸垂してみよう。荷物置きの上で寝てみよう。手すりでポールダンスしてみよう。
ねぇ。
誰か、見てくれよ。
ここにいるのにまるで僕がどこにもいないみたいじゃないか。
2022年01月13日(木) 11:57
『降りる、のちのち』
天気:晴れ
場所:最寄り駅のホームに向かう階段
人物:30代男性、黒のダウンジャケット着用
ショートケーキのスポンジを踏んで降りていった先はアスファルト。
2022年01月12日(水) 22:31
『われわれ、の、のちのち』
天気:風
場所:帰り道
人物:わたし、あんちゃん、たけちゃん
われわれの帰り道は敵だらけ。
坂道、空腹、横断歩道、コンビニ。
今日も一日がんばったねと自分を労りながらも走り出しそうな心に鎧つけて歩くのだ。
「じゃあね」
「また明日ね」
さて、今日の戦利品はありましたか?
「わたしは肉まん」
「わたしは20%オフのコロッケ」
「わたしはチョコボール」
2022年01月11日(火) 18:00
『鼻先にアイスの虎、のちのち』
天気:雨
場所:サーティワンの広告の中
人物:オレンジ色した虎
近づくと冷たくするくせに甘い香りはいっそう強くして、よくもこう、おれを翻弄してくれるよな。
いつまでもまんまるかわいい姿のまんまいられると思っちゃあ大間違いだぜ。おれはつよいんだ。狙った獲物は逃がさないんだぜ。みてろよ。
ガオーーー!
するとたちまちあの子は溶けてオレンジジュースになってしまいましたとさ。
2022年01月10日(月) 15:00
『振袖の女の子、の、のちのち』
天気:快晴
場所:フードコート
人物:ピンクの振袖の女の子
人魚の尾ひれ。
白虎の背中。
ジュゴンの下駄。
カメレオンの涙。
ついに身につける時が来た。
おばあちゃんの魔法の呪文。
「お姫様みたいにかわいいね。」
今日は膝くらいの高さの男の子に言われました。
バイバイした後の帰り道で、頭に小鳥を飼っているおばあさんに会いました。枝垂れた髪の毛に小鳥が必死に掴まっていました。
魔法の期限が近づいてる。
早く帰りたいけれど慣れない下駄で少しもうまく歩けません。やっぱりわたしは普通の女の子なんだなと思ってしまいました。うちに着いたら唐揚げとエビフライとサーターアンダギーが食べたいです。やっぱりおかあさんとおとうさんとおばあちゃんが好きです。
*新成人のみなさま、おめでとうございます。